ベーゼンドルファーとベヒシュタイン

折角、特色の違う2台のピアノが手元にあるので、もう少し詳しくそれぞれの特徴を書いてみます。
ベーゼンドルファー モデル170
いきなり余談ですが、グランドピアノ買ったよって話を友人としていて、いくらくらいなのという話から新品だと911カレラみたいな値段だよと伝えたらキ〇ガイを見るような目で見られました。まあそうですよね。分かる。でも良いじゃん趣味なんだから。車検も要らないですし、車に比べたら維持費相当安いですし。
世界三大ピアノの中でも、ベーゼンドルファーは趣味性が強いと思うんですよね。曲は選ぶしコントロールは難しいし。ただ、確かにベーゼンドルファーにしか出せない音があって、曲とハマった時の突き抜け具合は半端ないと言うか、唯一無二の響きを持っています。オールラウンダーなスタインウェイとは違って、若干ピーキーだけどピアニシモと残響の美しさにパラメータを全振りした感じ。
ベーゼンドルファーの音の特徴として、やわらかい音、優しい音、温かい音と形容される事が多いと思います。確かにその通りであるものの、コントロールを間違えると思いのほか鋭い音になってうるさいピアノになります。木の音色なのになぜと思うのですが、イメージとして、拍子木を思い浮かべて頂ければ。確かに木の音ですがカァーンと鋭い音が出ますよね。ベーゼンドルファーを強めに弾くと驚くほど鋭い音になって、これもコントロールが難しい所だと思っています。
もう一つ、ベーゼンドルファーの特徴である響きは、気を付けないとすぐに音が混ざるのです。緻密なペダリングが求められ、ベヒシュタインほどは音の重なりを許容してくれない。(ただこれは、スタインウェイでもヤマハでも混ざる音は混ざるので、ベヒシュタインの方が特殊だと思います。)
リムも響かせようとするベーゼンドルファーですが、蓋をした状態で弾いてもその響きが落ちないという特徴がありました。ベヒシュタインも同じく蓋を閉じて弾いてみると、こっちは明らかに音が細くなります。さすがに低音は 192cm の弦の長いベヒシュタインが深い音を出すものの、中~高音域については 170cm のベーゼンドルファーの方が響きます。なにこれすごい。そんで、蓋を開けて弾くと、部屋全体に花が開くような、とんでもない音になります。
現行のモデルはVCが付く新設計のものなのですが、まだイマイチ掴みかねていたりします。手元にあるVCの付かないモデル170は作られてから30年近く経っていて、ウインナートーンとして完成された音であるのに対し、VCはベーゼンドルファーらしさというかその唯一無二の音のキャラクターが少し薄れているようにも思います。
ただ、それが悪いことかと言うと必ずしもそうでは無く、VCはベーゼンドルファーの面影を残しつつ、より幅広いジャンルをカバーできるようになったのだと思います。VC無しのベーゼンドルファーは何ていうか正直じゃじゃ馬感がありますので、、
と言うことで、Bösendorferが家にあると、ちょっと嫌なことがあっても「まあ家に帰ればBösendorferあるしな」ってなるし仕事でむかつく人に会っても「そんな口きいていいのか?私は自宅でBösendorferとよろしくやってる身だぞ」ってなれる。戦闘力を求められる現代社会においてBösendorferと同棲することは有効って感じ。(※元ネタは 生ハム原木 です)
ベヒシュタイン A-192 (M/P-192)
そして特性の全然違うベヒシュタインです。元々10年以上前に、清水の舞台から飛び降りる覚悟で世界最高峰のアップライト、コンサート8を買ってしまった所からだいぶ人生踏み外した感があるのですが、結局ベヒシュタインのグランドを手に入れる事になってしまいました。ヤマハやボストンのアップライトを見ていた時にベヒシュタインのミレニアム116K(現在のレジデンス R2 Millenium)に出会ってしまい、その時の衝撃は今も覚えています。音の宝石箱じゃんこれ!と。
こんなにも違うピアノがあるのか、と知ってしまった所からもう戻れない所まで来てしまった感じですね。いやほんとこれ今後どうやって引っ越しするんだ。
ベヒシュタインは、音の立ち上がりの速さ、音の透明感、ピーク音からの減衰が早く持続する音などが特徴として語られますが、何よりも音を重ねて行った時に濁らないというのが最大の特徴じゃないかなと思います。濁らないというのをもう少し説明すると、それぞれの音がさほど干渉せずそのまま聞こえるんですよね。これはコンサート8を弾いている時にも強く感じたのですが、ミスタッチが不協和音にならず、やさしく教えてくれるような感じ。
そういえば、コンサート8を手放して A-192 を買っておきながら言うのもなんですが、記憶の中のコンサート8とA-192を比べると、コンサート8の方が楽器としての統一感が高かったように思います。低音から高音まで非常になめらかで、目の前に弦がある事もあり、音に包まれる感じはコンサート8が素晴らしかったです。対して A-192 はこれからまだまだ成熟していきそうな音で、それはそれで楽しみではあります。
ベヒシュタインが他のピアノと違うな、と思うのは特に、ペダルを踏んだまま低音をばーっと弾いた時、ヤマハもスタインウェイもベーゼンドルファーもゴゴゴゴっと濁って行くのですが、ベヒシュタインはそれぞれの音がクリアに聞こえます。これもすごい。
ただ、その特性はどちらかと言うと弾いて初めて分かるもので、なかなか録音では分からないのと、そもそもベヒシュタインは録音だと若干落ち着いた音になってしまい、スタインウェイやヤマハと比較して派手さに欠ける印象がありますね。
とは言え、音の色彩は豊かで、弾き方によって様々な表情を見せてくれるピアノです。和音一つ取っても、それぞれの指の力の入れ方で響きが違うのです。これ、ずっと何でだろと思ってたのですが、他のピアノだと和音のそれぞれの音の強弱が上手く混じり合って一つに聞こえるのに対し、ベヒシュタインはそれぞれの音がそのまま聞こえるので、違った響きになるのだと思います。そういう意味では、とてもシビアなピアノだと思います。
子供が夜に発表会用の曲を練習している時、ベヒシュタインは嫌だ!ベーゼンドルファーがいい!こっち音小さい!と言っていて、言われてみれば確かになと思ったのですが、蓋をした状態だと特にベヒシュタインは響きが弱く、そこはベーゼンドルファーに負けますね。いやまあ蓋を開けて弾きなよって話なのですが。
とりあえず、ベヒシュタインは下手な人が引いたらその下手さがハッキリ分かるピアノなのでこれで練習しなさいその後でベーゼンドルファーを弾きなさいという話をしました。正直、ベーゼンドルファーを美しく鳴らし切る方が難しいと思いますが、ペダルを踏んだ時の響きが強いので、子供の耳では何となく上手く弾けてるように聞こえてしまうのだと思います。
という事で。
部屋の2/3がピアノになってしまったので、本当にピアノの横にマットレスを敷いて寝起きしていますが、カワイが注意喚起していたように大きめの地震が起きたらマジで死にますねこれ。
ピアノは好きですがピアノに潰されるとかちょっと嫌なので、何とか死なないようにします。あとはずっと思ってますがベーゼンドルファーのロゴってめっちゃかっこいいよね。