人生を変えるピアノ(前編)


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いろんなピアノを弾き比べた事は以前記事にした通りですが、結局どれにしたのかを書いていませんでした。
もう二年前の話ではあるのですが、やっと一段落したので、色々書いて行こうと思います。

そして長くなってしまったので前後編に分けました。
前編は、選択までの道のりと選択したピアノの話です。

ピアノ探しの旅

結構巡りましたが行った順は以下の通りで、

新宿 → 埼玉 → 銀座 → 新宿 → 世田谷 → 銀座 → 有楽町 → 大阪 → 世田谷 → 銀座

分かる人は分かると思いますし、何となくお店の名前はふせておきます。

1. 新宿

そういえば、最初に行ったのは新宿でした。
この頃は「スタインウェイって良いよね」くらいしか思っておらず、ランプが付いた家具調のピアノを見て喜んでいたものでした。

2. 埼玉

Boston Piano を弾きました。
Boston の印象は悪くなく、実は、見積もりまで書いて頂いていたのですが、他にも色々弾いてから決めようという事になり、
ここから長いピアノ探しの旅が始まったのは前にも書いた通りです。

3. 銀座

YAMAHA SU7 と C.Bechstein Concert 8 が並んで置いてありました。
実は、ベヒシュタインのピアノを見るのは初めてで、いきなり Concert 8 というのも今考えると凄い話ですね。
この時は完全に冷やかしで、そして恐る恐るその鍵盤に触れた事を覚えています。
ただ、SU7 と Concert 8 を弾いた後では、YAMAHA YUS5 でさえもあまりに普通に感じられる程で、
同じピアノなのにこんなにも違うのか、と思ったものです。
Boston にするか、YUS にするか、くらいだったものが、世界にはもっと良いピアノがあると知ってしまったのでした。

4. 新宿

1 の新宿とは別のお店へ。
ただ、SU7 と Concert 8 の印象が強く、何を弾いてもピンと来ませんでした。
これもこんなものか。もっとこう、音を出した瞬間に心を掴まれるようなピアノは無いものかと、物足りない日々が続きます。

5. 世田谷

ベヒシュタインが気になったので、Concert 8 以外のベヒシュタインを色々弾きました。
そこで出会ったのが Millenium 116K と Classic 118 で、特に Millenium 116K の印象が鮮烈でした。

Millenium 116K は、その小柄な体躯からは想像もできないようなカラフルな音が次々と出て、本当に音の宝石箱のよう。
Classic 118 は Millenium 116K よりも懐が深い感じ。一応 Academy A.3 も弾いたのですが、あまり印象には残らずでした。
ここらへんからベヒシュタインの評価が急上昇です。

家に帰って色々調べてみると、YouTube でいろんなピアノを弾き比べている動画を見つけ、何度も何度も見ました。

・C.Bechstein Millenium 116K

・C.Bechstein Classic 118

・Boesendorfer 290 Imperial (いやこれはさすがに買えないけど)

あまりに何度も聞いたため、この曲を楽譜に起こしてみたりした程です。

6. 銀座

再び SU7 と Concert 8 を弾きに行きました。
やっぱりこの二つは別格で、確か価格としては SU7 と Millenium 116K が同じくらいだったので、
SU7 にするか、Millenium 116K にするか、背伸びをして Classic 118 にするか、という感じでした。
そして、それらと価格帯が全く違いはするものの、実は Concert 8 が割とお得なお値段だった為、無理をしてでも良いピアノを
買う方が良いのか悩み始める頃です。

7. 有楽町

あとはやっぱり気になったので、Steinway & Sons V-125 を弾きに行きました。
それはもうスタインウェイの音で、素晴らしいピアノだったのですが、ベヒシュタインを弾いたとき程の衝撃はありませんでした。
これを買うのであれば、Concert 8 を買った方が幸せになれそう、と思ったのも事実です。

8. 大阪

新古品の C.Bechstein Classic 118 がお得な値段だった為、はるばる大阪まで弾きに行きました。
Classic 118 はやはり良い音で、さらに悩みは深まるばかり。
このピアノが良い!と言い切れるのであれば、即決して買って帰ろうと思っていたのですが、中々その場で決める事ができず。。

そういえば、他には、グロトリアンのアップライトがあったので弾いてみました。
ヤマハのX支柱シリーズの元ネタ、というくらいしか知らず、触るのは初めてだったのですが、これも悪く無かったです。

結局、Classic 118 は、一定期間押さえておいて頂き、東京に帰って来たのでした。

9. 世田谷

大阪での感覚を覚えているうちに、もう一回、ベヒシュタインを弾きに。
もうこの時点では、世田谷の Millenium 116K か、大阪の Classic 118 か、銀座の Concert 8 か、という
C.Bechstein の 3機種で迷うという幸せすぎる悩みの最中です。

ここには Classic 124 と Concert 8 も置いてあったので、順に弾いていくという贅沢を味わいました。
端から弾いていくと、116K、118、124 の順に段々良くなり、Concert 8 で世界が変わるという感じ。

Millenium 116K < Classic 118 < Classic 124 < 越えられない壁 < Concert 8
(とても良い)     (マジ良い)    (本気で良い)               (!!!??)

みたいな。上手く説明できないのですが、確かにそれぞれ違いがあるのです。何なんでしょうねこれ。
そうえば環境の違いか、ピアノの個体差か、世田谷の Concert 8 と銀座の Concert 8 では、銀座の方が好みでした。

10. 銀座

三度目の銀座。
SU7 は凄く良かったのですが、隣に居たのが Concert 8 だったというのが、SU7 にとっての不幸でした。
私は真っ直ぐに Concert 8 と向き合う事にしました。

ピアノとの対話

私が弾ける曲は多くありません。
一番好きな曲を、真剣に弾きました。

黒檀の黒鍵に触れながら、このピアノを買うと生活の全てがピアノ中心になるような気がしました。
その覚悟があるかどうかが全てで、ちゃんとメンテナンスをしていればピアノは 100年持つ楽器であることを考えると、
向こう 100年を幸せに過ごす事ができるのなら、決して高い買い物では無く。

拙い演奏で弾いていると、『ピアノが好きと言っても、お前の「好き」はどれくらい?』と聞かれているような感じでした。
このピアノは、まだまだ全てを見せてくれていない。その力が私には無いのも事実でした。
ピアノの実力を出し切れるようになるにはあと何年かかるか知れず、お前にはこれを買う資格があるのかと。

その一方で、以前にどこかで聞いた話を思い出していました。

『例えば、泳ぐのが下手な人がいたとして。
 泳ぎに行こうと誘われた時に、下手だから行きません、と答える事は、全く意味の無い事です。
 下手だからこそ、より多く練習をして、上手く泳げるようにならないと。』

ああ、そうか。今、私は、泳ぐのが下手な人なんだ。

絶妙な重さの白鍵は、アップライトとは思えない程タッチに機敏で、
精緻な音は、一切の妥協を許さずミスタッチを顕わにして来ます。
ただ、優しく間違った音を教えてくれるような、嫌味の無い響きでした。

まずは安いピアノを買って、練習して練習して練習して、物足りなくなったら良いピアノを買う、と言う事も考えました。
ですが、気に入らない服は結局着なくなるように、好きになれないピアノを持っていても、弾かなくなるかもしれません。

曲の終盤で、少しだけ、振り向いてくれたような気がしました。
呼びかければ答えてくれる。
こんなに、下手な腕でも。

ベヒシュタインを知らなければ、きっと Boston を買って、それなりに満足していたのだと思います。
けれど、知ってしまった。既に世界は変わってしまった。
ピアノを人生の中心に据える事ができるか。
お前にその覚悟はあるか。

他のお客さんも居る店内で、一曲丸ごと弾き切って、これまで弾いてきたピアノを思い出しつつ、全ての選択の中で、
どれを選べば一番幸せになれるか、そして、どのピアノを一生弾いていたいかを考えた時に、
答えは一つしかありませんでした。

私は覚悟を持って、C.Bechstein Concert 8 に決めたのでした。

後日譚

ピアノ選びに協力してくれた、私よりも断然ピアノが弾ける人の意見として

『Concert 8 は、なかなか友達になれそうに無い気がした。
 Boston も SU7 も Millenium 116K もすぐに仲良くなれる感じだったのに。』

というのがありました。

奥の深いピアノだなと感じたのは同じ感想だったようで、一見気難しいように見えるのですが、
その実、懐が深すぎて一部しか見えていないような感じでした。
あるいは、単純にこちらの力が足らなさ過ぎただけかもしれません。

だからこそ、Concert 8 にしようと思ったという部分もあります。
これは努力のし甲斐がありますね。

後編に続く

と言う事で、前編はここまで。後編はまた後で。
後編はベヒシュタインべた褒め記事です。

 ⇒ 後編

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